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健康で文化的な最低限度の生活がおすすめの人
- 生活保護の現場に興味がある人
- 社会ドキュメンタリー作品を探している
- どん底に落ちてしまった人の再生物語が読みたい
ネットでは「ナマポ」などと呼ばれたりしているが、本作は「生活保護」をテーマにした作品。よくわからない人でも「福祉制度」としての認識はされているだろう。
そんな生活保護の現場を取材し、社会ドキュメンタリーとして描かれている。個々のケースを掘り下げ、様々な事情で受給する人が出てくるためショッキングな内容もある。
面白いかどうかで言うと不思議な感じ。一般社会の中で、どん底にまで落ちている人を描いている訳なので。重たく暗い展開もあり、リアリティを感じつつ読んで欲しい。
「健康で文化的な最低限度の生活」のストーリー
東京都東区役所に就職した主人公・義経えみるは、福祉事務所生活課に配属された。この生活課で、生活保護受給者や申請者と関わることになる。
えみるは、社会福祉の制度に全く知識がない状態から、配属先で学びつつ働き日々奮闘する。
役所サイドの葛藤描写がとてもリアル
©健康で文化的な最低限度の生活 小学館
生活課で働く人の心情がリアリティあるなと感じる。社会福祉の現場で働いているからと言って、必ずしも訪れる生活困窮者に理解があるかと言えばそうでもない。
理解のある人もいれば、受給者を「面倒な人」として感じていたり、「こんなところ(生活課)から抜け出したい」と思っている人もいたり。
横暴な態度で申請してくる人物もいるが、紳士に対応していかねばならない。当然現場では「なんでこんな人を相手にしなきゃいかんのだ」と思う心も出てくるだろう。
受給者の生活を調査するために訪問したりと、仕事とは言え嫌がられることもやらざるを得ない。受給者の貧困事情だけでなく、現場で働く人の葛藤もきっちり描いているのが良い。
作者の思想や意図はほぼ感じないドキュメンタリー性
柏木ハルコさん『健康で文化的な最低限度の生活』(8)読了。生活保護家庭の高卒後の進学やシングルマザーの出産の問題など、いつもながら本当にリアルかつタイムリーで読み応えありまくり。このシリーズも政治家必読書だと思う。
— 伊藤絵美 (@emiemi14) September 1, 2019
作者である柏木ハルコ氏は、もともと自己責任論者のようなところがあったとのこと。しかし、社会活動家の本などを読んで、見識が広まって本作を描くことに繋がったようだ。
しかし、生活保護受給の現場を美化して描いたりすることもない。保護を受けながら頑張る人もいれば、不正受給があることにも触れるなど、あらゆるケースに触れていこうとする。
ここに私はドキュメンタリー性を感じており、作者都合にしていないところを評価している。「生活保護受給者はこんなに大変」という偏りがあると、伝わるものも伝わらなくなる可能性があるからだろう。
受給申請に来た人に、あれこれ理由をつけて生活保護に頼らず済むように促しているシーンなどもリアル。窓口での申請攻防が実際にあることは想定でき、見たことのない私も大変だなと思ってしまった。
人それぞれにある「背景」の描き方が上手い
色んな人物が出てくるが、登場人物の背景を描くのが上手い。人にはみんな想いがあるが、この想いが時には残酷な流れに繋がっていたり。
例えば「不正受給」は生活保護関係のニュースで話題になりやすいが、作中でも不正受給に関する話が出てくる。
しかしこの不正受給も、とある人の「想い」が絡んでいて・・。法的には確かにアウトなのだけど、「このケースでは可哀想すぎるだろう」というエピソードも。(3巻参照)
人々の背景や想いと、制度のミスマッチが起こっていることは容易に想像でき、制度の難しさを感じざるを得ない。「生活保護に至るまでの背景」を含めてわかりやすく描かれている。