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血の轍がおすすめの人
- 毒親の意味が分かる人
- 母子の共依存関係ストーリーが読みたい
- ドロドロした人間関係モノが好き
2010年代後半くらいからだろうか。「毒親」コンテンツが昨今のブームで、その影響は図りしれず多くの人の共感を得ている。かくいう私も、思うところがあり毒親には関心がある。
そんな毒親コンテンツの中でも、本作は異彩を放つ。毒親のおかしさはもちろんながら、精神的影響を受けていく子供を巻き込みサスペンスの世界へ落とし込んでいることだ。
通常、毒親の話になると「親が最悪」とか「あの頃の親がおかしかった」という親批判がネタとなるのだが。しかし本作は、毒親問題が現在進行形で動いている。どうなるのか先が見通せないため、恐怖感が読者にも押し寄せるところがゾクゾクする。
「血の轍」のストーリー
©血の轍 小学館
中学2年生の長部静一と母親の静子は仲のいい親子。ただ、静子から静一に対するスキンシップは少し過剰なところがある。
当人同士は気にしていないが、静一もまたマザコンぽさがある少年。静一の従兄弟のシゲルからは「静一の家庭は過保護」と笑われるなど、客観的に見ると少しおかしい。
そんな中、静一ら家族とシゲルを含めた親族はハイキングに出かける。このハイキングで起こる事件を境に、静一と静子の関係にさらなる変化が起こり始める。
人物、風景を含めた作画が芸術的であり不気味
血の轍。凄く面白い。僕は内容を全く知らずに読み始めて幸せだったと思ってる。帯の文言すら(手にとってもらうために仕方がないが)不必要だと思う。
— 伊集院光 (@HikaruIjuin) September 18, 2019
絵が上手いという意見もあれば、下手という意見も出ている本作。なぜそのような意見が出るのかは私も理解できていて・・。
過去の押見作品に比べると、少しぼかしたような描写がよく使われるのだ。それが本作の静子と静一の間における「言葉に出来ない部分」を描いているので素晴らしい。
ただでさえ親子関係でモヤっとすることがあるのだから、静子の異常性を受け止める静一の心の内は表現が難しいところ。
作画から感じ取れる思春期少年の、親から一人の人間として脱却したい思いだったり、だけど母親を守りたい思いだったり。この部分が芸術性を帯びた表現であり不気味すぎて取り込まれた。
毒親(静子)に侵食されていく静一の心
ただの毒親漫画、マザコン漫画で終わらせない理由として、静子が静一の心を侵食する様子が描けている点だ。少しずつ、でも着実に我が子の心をコントロールする描写が描かれている。
静一が可哀想だなというか、親に侵食されてしまったなというか。静一のガールフレンドが途中で現れるが、いい具合に毒親が介入してきて、このシーンもかなり怖い。もはやホラー。
「母親が息子の彼女をよく思わない」なんて、世間一般にありふれた話なのだけど。静子に取っての静一が何者かに奪われる切迫した状況を、静子・静一・彼女の視点で読んでいると怖い。
静一は良くも悪くも優しい子なので、母親の苦しみが誰よりも分かってしまう。だから静一ではなく、静子の人生を生きるかのように心が静子に寄ってしまうのだ。
すぐに毒親に支配されるのではなく、真綿で首を絞めるかのごとく。この絶妙な空気感を表現できていることが凄い。毒親育ちの人は、共感ポイントが多いだろう。
少しでも自身の親に「毒」を感じるなら面白い
毒親と無縁の人が読んでも、今ひとつ分かりにくいところがあると思う。私も、少なからず両親に毒影響を受けて育ったこともあり、本作の表現力に度肝を抜かれた。
親から発せられる無言の圧力だったり、期待という名のプレッシャーだったり。私はそういう親の面倒な部分に侵食された過去があるので、静一の気持ちが痛いように分かる。
逆に親子間に共依存の問題などがなく、至って健全な関係を築けている人は、読んでも「この親おかしくね?」で終わるかもしれない(笑)
静子の過去についても含みを持たせる伏線描写が多く、2020年8月現在まだ連載中ながら今後の展開も期待。