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ど根性ガエルの娘がおすすめの人
- 毒親やDVといった家庭内の話が読みたい
- 壮絶な展開に次ぐ展開を期待したい
- 深いコミュニケーション作品を求めている
「ど根性ガエル」をご存知だろうか?昭和にヒットした作品で、アニメ化もするなど一世風靡した名作だ。私はど根性ガエルの、再放送をアニメで見ていた程度。それもうろ覚え程度である。
さて、そんな「ど根性ガエル」だが、作者の吉沢やすみ氏には娘がいる。この娘さんがこの度、エッセイ漫画として家庭内の事情を漫画化して「ど根性ガエルの娘」となった。
一番すごいのは、この内容で掲載することを許可した家族たちだろう。どの登場人物も実社会生活があるのに、自身のことをおおっぴろげに出しての本作。文字通り、身を切った人たちの物語であることに注目して欲しい。
「ど根性ガエルの娘」のストーリー
©ど根性ガエルの娘 白泉社
大ヒット作、「ど根性ガエル」を世に送り出した、吉沢やすみ氏の娘・大月悠祐子氏が主人公。ど根性ガエルのヒット後、スランプに陥った父は荒れ、苦しむ中でギャンブルに走る。
そしてある日、原稿を落とし失踪。家族崩壊や、親子関係から見えてくる毒親やDVといった家族内の事情をエッセイとして描き上げた作品。
かなり身を削っており、家庭事情を世間に惜しみなく公開している点など、衝撃の多い漫画である。エグすぎるため、作中では読者への配慮としての脚色を示唆しているものの根本はノンフィクション漫画だ。
時系列を動かしつつ衝撃展開を演出していく
最終回を読む前から涙が止まりませんでした。覚悟が決まった、腹をくくった凄い作品でした。奥歯が折れるほど歯をくいしばって描いたことが触れるように伝わってきて、ものかきとしての業に畏敬の念を抱きました。長い間本当に噛み締めて読ませて頂きました。ありがとうございます!
— 佐伯 真魚 (@koyuzu_blue) April 15, 2020
淡々としたエッセイ漫画になっていないところがまず面白い。エッセイ作品のため、起こった出来事をひたすら描いていくという道もあっただろうに。
しかし、本作は時系列を行き来させ、過去と現在を上手くリンクさせながら話を動かす。そのため、「過去が大変だったとしても、今は幸せなんだろう」という安心感は作中で適度に与えてもらえる。
逆に、「今は大丈夫なの?」というようなシビアな過去も描いており、「これは仮にハッピーエンドでも関係修復は困難だろう」という人間関係の崩壊まで触れていたり。
「過去は家族めちゃくちゃだったけど、今はみんな円満です(チャンチャン)」で終わるとは思いにくい演出がしびれる。
最終回を迎えているが、「ど根性ガエルの娘」の家族は今もなお継続されている。ど根性ガエル一家から人がいなくならない限り、読後もあれこれ想像して気にさせる力が強かった。
毒親、DV、家庭崩壊の経験者には共感ポイントがある
「家族は良いものだ」といった幸福像をぶち壊す作品でもある。作者の大月氏が育った環境をそのまま描いており、その中で毒親やDV、家庭崩壊などの生々しさが心苦しい。
私も気持ちがわかるというか、両親の毒親ぶりには、自身の体験から共感するものがあった。さすがに本作レベルのことはないが(苦笑)
苦労したであろう話が、包み隠さず描かれているので、それだけ読者にも伝わってくる。大月氏の考えていること、思っていること、感じていることを漫画を通して言語化できているのが素晴らしい。
気持ちというのは、言語化が非常に難しい。その難しさを、大月氏は漫画という絵と、キャラに話させることで訴えている。
作中には加害者・被害者といった立場が度々出てくるが、渦中にいる人であれば、思わず考えさせられる場面があるのではないか。
人物同士が「コミュニケーション」を取ろうとするシーンも度々ある。そこにすれ違いがあったり、理解し合えないモドカシイ場面もあるが、このモドカシサを巡っても共感だらけ。本当にすごい作品だ。
可愛い絵に宿る魂が素晴らしい
本作が良かった点として、絵をとても気に入ったことも上げておきたい。今風の絵かと言われると、そうでもなく。情報量の多い描き込んだ絵とは呼べないだろう。
ただ、この可愛い絵でキャラクターに魂を吹き込んでいるため、キャラたちの喜怒哀楽がダイレクトに伝わってくる凄さを感じざるを得ない。
怒り爆発のシーン。悲しく涙が溢れるシーン。ワクワクしているシーン。場面ごとに感情を表出させ、そこから一気に転換させる手法も上手かった。
どの人物にも魂があり、だからこそシンプルで可愛い大月氏のイラストとマッチしたのだと思う。ここまでキャラから伝わってくる熱量ある漫画は、なかなかお目にかかれない。素晴らしい作品だ。