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クロスゲームがおすすめの人
- 野球漫画が好き
- 「好き」を複雑な表現で楽しみたい
- 誰もが納得する「約束されたラスト」を望む
男女が繰り出す「好き」の表現は実に多様である。ストレートな物言いから、変化球のような遠回しな伝え方。察しろという沈黙を貫くタイプなど十人十色だ。
しかし本作は、この「好き」を巡って複雑な表現が張り巡らされた。歴史に名を残す名作であり、一部の人にしか与えられない青春の甘酸っぱさを、読者全てに与えてくれる。
それくらい読んでいて楽しい、切ない、儚い物語だった。今回はネタバレも含むので、未読の方は読まずにそっと画面を閉じ、クロスゲームをさっさと読んで戻ってきて欲しい(笑)
「クロスゲーム」のストーリー
©クロスゲーム 小学館
主人公の樹多村光(コウ)と、月島家の三女・青葉との関係を描く青春野球漫画。次女・若葉とコウは、小学生ながら両思いの関係だったが若葉は事故死してしまう。
中学生になったコウは、野球をしていた青葉の投球フォームに憧れトレーニングを続けていたこともあり野球部に加入。青葉との距離が近づく中で、お互いに意識し合う関係へと発展してゆく。
若葉は亡くなっているが、生前はコウと仲良しだったこと。それを青葉は知っていたからこそ、すんなりといかない男女の物語になる。
ウソを本当のことに変えていくシーンに鳥肌
今までもこれからも『クロスゲーム』を超える野球漫画は無い。
野球だけじゃなく恋愛も楽しめる素晴らしい作品ですよ☺️#クロスゲーム pic.twitter.com/JpETHHOWV8— 雨宮ろん (@LON_ramias1710A) September 23, 2019
ラストから語るが、コウが青葉についた「3つのウソ」を本当のことに変えていくシーンに鳥肌がたった。そのウソは、読者としてはウソじゃないというのはわかりきっていることなのだけど。
ただ、ついたウソの内容が、実力が絡んでくる内容だった。「甲子園に行く」「160キロを出す」「青葉がいちばん好き」という3つのウソ。
しかし、甲子園に行くことを決め、160キロを出すんだけど、(計測では表示されないトラブルがある。これは読者の判断に委ねるという作者の最高の演出でもある)
じゃあ、「青葉がいちばん好き」というウソは・・?となると、事実上のコウから青葉に対する告白と取れる。ここで気づかされた演出に、読者心理としては鳥肌モノ。
ウソのひっくり返し方&この形での告白になるなんてという意外性、そりゃ読者も一緒に青春しちゃうがなと悶絶。全然、野球とか青春してない私も、作者にはいい感動をもらったと感謝。
好きの表現方法がストレートなのだけど、漫画としては高等なテクニックを使っていて複雑である。これぞあだち充という技を見せてもらえた。
苦しんだ青葉というヒロイン
青葉は終始ひねくれたヒロインだった。ツンデレ系というべきか。しかし、その態度の理由はいつも亡くなった次女・若葉の存在を大事にしていたからこそ。
コウのことは好きだけど、その好きは決して口にしてはならないタブーのようなものになっていた。(言うと、若葉を裏切るから)
青葉にとっては、若葉がいちばん大事。だからこそ、彼女の本心は口にせず、ただひたすら「嫌い」という言葉をコウにぶつけていた。
どんな男の子が好きなのか聞かれても、※無理難題で強がったり。(※160キロのストレートを出す人)など。後にコウが実力で応えに行くのもドラマティック。
青葉の本心を封印し続けていた彼女の立場になったら、ずっと苦しかっただろうなとラストで思ってしまった。
苦しんだからこそ幸せになってほしい。コウもすごいけれど、青葉もまたすごい。この二人が生み出した「好き」を巡ったドラマは、漫画史に残る物語だ。