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聲の形がおすすめの人
- 陰湿ないじめ描写でも読める
- いじめ問題に対して思うことがある
- 賛否を含め色んな感想が生まれる作品が読みたい
聴覚障害の女の子をいじめる。加害者の男の子は反省&謝罪して受け入れられる。こういった流れがあるため「いじめ加害者を許し感動を煽っている」という意見もたまに見かける。
確かに、美談のように描かれている側面もあり、受け止め方次第では誤解されることもあるだろう・・。
しかし私は、「人には未成熟な部分がある前提で、どのように成長して他者を認め生きていくか」を問う作品だと感じる。本作の面白さが損なわれない範囲で、レビューしつつまとめたい。
「聲の形」のストーリー
©聲の形 講談社
転校してきた少女・西宮硝子。西宮は聴覚障害があり、補聴器をつけても会話が聞き取れず、コミュニケーションが苦手。筆談がクラスメートとの関係に必要で、いつしか厄介者になりいじめ被害に。転向という形でいなくなる。
しかし、西宮をいじめていた主人公・石田将也もまたクラスメートから断罪されいじめに遭うようになる。自身の犯した罪に気づき、再び西宮に会いに行くことに。
いじめを行っていた石田やクラスメート、そして西宮を含めた人間ドラマが展開される。
「未成熟」な人間たちによって起こった事件
作中のいじめ加害者たちはとにかく酷い。小学生という未成熟な子供だからこそやってしまうような事件でもある。
もし成熟した大人であれば、やって良いこと悪いことの区別くらいはつく。一連のいじめ描写は見るに耐えない部分が多く、西宮がすごく健気な子だけあって心が傷んだ。
ただし、こういった表面的な部分がインパクトに残るためあえて描いていると思う。そのため「いじめ加害者が謝罪して許される流れが嫌」といった意見も出ることになるわけだが・・。
いじめは導入部分の表現手法であって、「いじめが許される話」という解釈は私には違うなと思えた。
彼らが小学校を出た後、高校編も描かれるが、加害者側の言い分や、個々の感じ方、視点などを重視しセリフを出している。高校生(大人)になったからといって、人間的に成熟するわけではないことを示唆した表現も上手い。
表面的なことにとらわれていないか、成熟した人間ならどう考えるかを問われている。
加害者に嫌悪している読者もどうなるかわからない
聲の形「いじめの話だ 胸糞悪い」って意見はわかるんだよな…
でも本当に伝えたいことはそうじゃないんだよな…
5回ぐらい見ればわかる— ヤドカリ (@Y4D0K4R1) July 31, 2020
この作品内で起こるいじめは、とても陰湿なものだ。聴覚障害のある子から補聴器を取り上げたり、コミュニケーションを拒絶するなど西宮にしてみれば、たまったものではない。
ただ、この加害者側の態度もそれなりに理解できてしまう大人も多いだろう。筆談や手話でないとコミュニケーションが取れない西宮。
取れたとして、その相手と仲良くなりたいといった動機もなければ?こうなると、いじめまではしなくとも、厄介者としていじめ傍観者になる可能性は誰もが持っている。
主犯の陰湿な行為は描かれているが、傍観者は傍観の風景だけしか描かれない。何をするでもない、ただ悪いことが起こっても関与しない姿勢。これもまた残酷な一面だろう。
「聲の形」という漫画だからこそ、読者は俯瞰したポジションから物事を善か悪かで判断できてしまう。ここが落とし穴だ。
ひょっとすると、読者の身の回りで似たようなことが起こっているかもしれない。そんな時、あなたは程度の差はあれ加担者にもなりうる可能性がある。そういう受け取り方もできるのが本作。
この問題に関しては、各々の言い分があり、そして繊細なテーマだからこそはっきり描けた作者の上手さ。
加害者に、植野や川井という女子がいる。彼女らの言動は酷いが、各々のポジションから見たときの言い分としてはリアルに存在するのも事実。彼女らの言動がよりリアリティを生んでいる。
美化され過ぎたヒロインは非現実的
深い心理描写を描いたことは、とても評価しており読み応え抜群だった。一つ気になるところが、西宮が美化され過ぎたのではないかという点。
いじめられた被害者で、仕打ちを考えると復讐でもしてやろうかと思うのが通常だろう。私もいじめを受けていたので、彼女の立場なら正直なところ転校したらもう関わりたくもないと思うはず。
そう思うと、ヒロインとは言えど健気に他者を許し寛容すぎると言える。「いじめた奴らは絶対に許さない」とならないところが、勿体なかったかなと。
復讐漫画ではないので、まとめ方として美化するのが都合が良かったのだと思うけれど。西宮に関しては、さすがに現実ではこんな子はいないので難しいところだ。
色んなところで感想を先に読んだ方もいるだろう。だが、仮にネタばれしていても、読んだ上でキャラの心理を考えないと作品の深みが理解できない。答えは無いが考えさせられる道徳の教科書的な作品だった。