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限界集落(ギリギリ)温泉がおすすめの人
- アイドルやアニメ漫画などのサブカル好き
- 企画マーケティングに興味関心のある人
- 地域復興をテーマにした漫画を探している人
終始ワクワクする展開だった。鈴木みそ氏は、漫画家でありながらビジネス分野にも精通していることもあり非常に面白い内容。
経営不振の旅館再興と、地域復興を目指すという政治的な側面を描きながらも、喜劇を見せてもらっているような。エンターテイメント性をしっかり押して一気読みを誘う。
そしてキャラの扱い方が素晴らしい。売れないネットアイドルや、オタクたちがとても輝いている。アイデア次第でなんでも叶える!という夢を壮大に広げ魅了される作品。
「限界集落(ギリギリ)温泉」のストーリー
©限界集落(ギリギリ)温泉 エンターブレイン
主人公・溝田とおるはゲームクリエイターの仕事から逃亡し、たどり着いた伊豆でホームレスをしていた。そんな溝田と偶然出会った小学生・山里龍之介。
龍之介は温泉のある「山里館」の息子で、溝田を温泉に入れることに。しかし山里館は立ち退きを迫られており、龍之介の父・山里康成も苦しかった。
そんな山里親子を救うべく立ち上がった溝田。そして、時を同じくして現れた自殺を考えるコスプレイヤーでネットアイドルのアユ。溝田はアユを利用し、山里館の現状打破を企てる。
「温泉経営」や「町おこし」をビジネスエンターテイメントに昇華
鈴木みその「限界集落温泉」読んでるんだけどおもしろい。アイドルやオタクをうまく回してお色気と青春を作り出すやり手の主人公がよい。やってることは売れる作品作りと一緒で、読者側としてもまんまと引っかかってるんだけど、メタっていて気持ち良いのよね
— ばりやー (@bariyaaa) March 2, 2018
最初の議題は「経営不振の温泉をどう立て直すか」という方向性で進む。ここにアイデアを当てて行く溝田のスピード感が素晴らしく、とても仕事から逃げてきた人とは思えない敏腕ぶり。
そして舞台を過疎化の進む集落に置いているところも上手い。温泉経営が傾いているのは、「人口減少に歯止めがかからない村の問題でもある」という流れを作っている。
経営とか町おこしとか。文字だけで見ると、説明臭くて読むのが面倒に思うかも知れないが・・。これら複雑そうな設定を、見事にビジネスエンターテイメントに変えたのが本作。
お仕事モノのジャンルでありながら、アイドルやオタクという濃いキャラを入れていること。そんな彼らを味方に、どんどん困難を乗り越えていくところが感動すら呼ぶ。
対比的に、経営不振を理由に迫ってくる悪キャラを用意したりと、漫画の王道路線はしっかりキープ。このプロットで退屈するわけがない(笑)
ヒロイン・アユの存在感とオタクの躍動感
鈴木みそ氏の作画力ありきだが、ヒロインとなるコスプレイヤーのネットアイドル・アユが可愛い。可愛らしさの裏側に、自殺をほのめかすなど少し病んだかまってぶりが良き。
このヒロインの存在感によって、物語にも大きな流れを生み出していくのが好き。人のいない温泉街の広告塔とか、読み手は「今後どうなる?」というワクワク感をそそられるので。
またしっかりとアユの追っかけとしてオタクを配備しているのも良い。漫画なのでアレだが、絵に描いたようなオタクなので見ていて私は既視感を抱いた(笑)
アイドルやアニメに漫画。こういったサブカル分野が好きな人は、ストーリー展開に興奮することだろう。温泉旅館を再興させるべく、オタクたちに何ができるのかを見て欲しい。
アユの存在があることで、生き生きとするオタクたちにも躍動感が出ていた。鈴木みそ氏は、こういった分野に精通する人の喜ぶポイントが分かっている。
思い通りにならない展開を含めた意外性もある
溝田による「アイドルを活用した温泉復興モノ」と出だしは思うのだけど、そこから意外性のある展開も描かれている。
ネタバレになるので避けるが、作中で起こる小さな展開でびっくりすることはもちろん。アユを商品化していく中で、方向性をいじってみたり。
大本のネタである温泉復興にプラスして、社会的な問題まで込み入ってきたり。溝田を中心とした再建プランが思い通りにならないからこそ、展開が動く際には意外性を楽しめる。
この手の作品は、ビジネスの話として書籍ではありがちだが、漫画ではなかなかお目にかかれない。マーケティングを仕事にしている人などは、勉強としても役立つ。
映画化してもいいくらい高レベルなところにいる作品。2020年9月現在だが、kindle アンリミテッドで読めるのが不思議なくらい。もっと続編を出して欲しいくらいの名作。