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かくかくしかじかがおすすめの人
- 東村アキコが誕生するまでの過程が知りたい
- スパルタ系の先生が出てくる作品を探している
- 今を頑張れずズルズル過ごしている人
漫画家に「師匠は誰?」と聞けば、基本的にアシスタントについた先生など漫画に精通した人物が出てくるだろう。しかし、東村アキコ氏は学生時代に通った美大受験のための絵画教室の先生が師匠だった。
漫画と絵画は、同じ描くでもジャンルが違う。それにも関わらず、東村氏は絵画教室の先生を師匠と呼ぶ。
私としては「漫画と絵画は異なるので、師匠というには大げさでは?」と思ったが、読み終えて発言撤回。間違いなく漫画家・東村アキコを生み出した師匠がここにいる。
「かくかくしかじか」のストーリー
©かくかくしかじか 集英社
作者である東村アキコ氏の、幼年時代からの生い立ち~漫画家になるまでの過程をエッセイ漫画で描いている。
作者の美大進学のために通った塾の日高先生とのやりとり。また、美大合格後の暮らしや、社会に出て働きながら漫画を描いたことなどにも触れている。
問題になりそうなスパルタ指導も師弟コメディとして笑える
まず日高先生のキャラ立ちが半端ない。なぜか竹刀を持っているし、時にはその竹刀を振りかざしているため怖い。
東村アキコ氏の時代なので、こういった威圧的なスパルタ指導も無くはないのだけど・・。一歩間違えれば、大事な師匠を非難されかねないと思った(笑)
私も学生時代、授業中に竹刀を持っている教師がいたので、とても他人事に思えず。日高先生の印象も、漫画を通してではあるが当初は好感が持てなかった。
しかしここは東村氏の腕の見せどころ。お得意のコメディに落とし込み、日高先生との日々を笑える仕上がりに昇華。誇張表現もあるだろうが、それらを含めてもギャグエッセイ的で好きだ。
東村アキコ快進撃のヒミツが描かれている
東村アキコ先生の「かくかくしかじか」、漫画を描いている人は特に、ぜったいに読んだほうがいい。私、絵の先生とか心の師みたいなものが今までずっといなかったんだけど、読んでから日高先生がそのまま私の心の師になって「描け」って言ってくれるようになったんだもん。すごいものをもらってしまった
— 瀧波ユカリ (@takinamiyukari) April 5, 2015
あれこれ描いてもネタバレになるので、物語がどうなっていくかはさておき。日高先生は徹底して描くことを求めてくる、数をこなせタイプだ。
この数をこなす指導は、東村氏と抜群に相性がよく、何作も同時連載できている秘密だと思う。同時連載はプロでもハードルが高いわけだが、量を描く指導を受けた東村氏は鍛えられている。
いきなり「質を追求して良いものを描こう」と悩むよりも、まずは手を動かすこと。これを徹底して教わったからこそ、今の東村アキコ快進撃があるのではないだろうか。
人間は知恵がついてくる生き物なので、成長すればするほど失敗を想定しがち。「描け」は作中によく出てくるキーワードだが、これは普遍的なメッセージとも取れる。
野球であればとにかくバットを振らないといけない。地道なことだが、コツコツとやる重要性が本作を通して伝わってくる。
「師弟」という人間関係の素晴らしさ
東村氏と日高先生の師弟関係が素晴らしいのも本作が高く評価される理由だ。一般的に、師弟関係になるほど濃い人間関係を築く人は少ない。
家族でもなければ親友でもないその関係性は、とても密で人生においてそう出会える話でもない。この関係性こそが羨ましくもあり、人間関係の素晴らしさを説いている。
本作は、東村氏を漫画家として描いていることはもちろんながら、人として描いている部分もある。関係性が良い時も、悪い時も含めて赤裸々に見れたのが良かった。
こういう人との出会いが、結果的に成長に繋がることは言うまでもない。全5巻と短いながらも、中身は漫画家・東村アキコが誕生するまでの過程が凝縮された名作ゆえおすすめ。
狙って泣かしにくるわけでもなく、自然と感動する良いエッセイ作品。