夢を失った大人や社会への挑戦歌『ソラニン』

ストーリー,ジャンル

大学を出たばかりの若者たちが、日々を過ごす中で感じる疑問やそれに伴って広がる人間模様を描いた青春ストーリー

主人公である種田成男井上芽衣子を中心として、周りに存在する友人たちにもスポットを当てている。大学を卒業したばかりの年代特有の恋や悩み、そして社会に出ていくに当たって「このままでいいのか」と自問自答する葛藤などの心理描写も表現されている。

漠然とした将来への不安を抱えながら、「やりたい事を心からやれているのか」と自分探しをする若者たち。主人公の種田は学生時代からバンドを組んでいるが、音楽で表現する事に対して本気になれないでいた。ちなみに、「ソラニン」というタイトルは彼らのバンドの曲だ

社会人2年目の芽衣子の元で同棲している種田。彼は夢を追いかけるため、バイトをしながら生活する少しヒモのような立ち位置にもいる。そんな種田を支える芽衣子も、社会に疑問を抱えながら働いていた1人。そんな芽衣子も勢いで仕事を辞めてしまうが、本気で音楽をやってない種田にけしかける事から話は広がっていく。

つまらない大人になりたくない

若い時にやりたい事を全力でやれる人間なんてごく少数だと私は思っている。人に流され「まぁいいや」が蔓延している日本社会。みんなが学校に行くから一緒に通う。みんなが受験するから勉強する。学生が終わればみんな働くから自分も働く。

そんなごく在り来たりな日常に疑問を持った側の人間は、これからをどう生きて行けばいいのだろうかと考える。学生が終われば社会に出るが、それが「大人になる」という事とは直結しない難しさを本作からは痛烈に感じさせられる。

作品内では、種田が会社勤めの芽衣子に対して「お茶汲みや、書類コピーだけの人生でいいのか」とやや煽る内容で問うシーンがある。それは、種田自身が「つまらない社会」や「退屈な大人にならねばならない」と分かりながらも、まだその現実を受け入れるには時間がかかっているというメッセージを含んでいるのだろう

社会に出て働いている人からしてみれば、イラっとさせる言動が種田や芽衣子から多く出てくると思うが、そのイライラの正体は自分に取って何なのかを考えさせてくれる。そこには読み手が「つまらない社会人」になっているのか、それとも「今を充実して生きている社会人」なのか。

この作品は、いま社会で働いている大人たちの深層心理をも浮き彫りにしてくれると私は思う。

こんな人におすすめ

「学校を卒業したらツベコベ言わずにさっさと働け!」という頭の固い人は読まない方が良い。書いてきた通り、イライラしてしまう人がいるからだ。

向いているのは、さり気ない日常の中で小さな幸せが見つかると嬉しくなる人。また青春時代に、仲間とバンドを組み音楽に夢を持っていた人などは作品の意図が存分に伝わるのではないだろうか。

この作品は、ひと一人の人生を左右する展開こそ存在する物の、「ラストに壮大なオチが用意され衝撃がある漫画」とは違う。もちろん、ラストに読者各々が思うところはあると思うが。

読み手の世代年齢は関係なく、現実に不満を抱いている人や、社会に疑問をモヤモヤと抱えている人は一読の価値があるだろう。本作が発売されてから10年を過ぎるが、いつの時代にも作中に登場しているような若者は存在して当然なのだ。

そんなレビューを書いている私もその一人である。良い歳なのだけど、それでも大人になれない人は一定数は存在するという事だ。

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