人の死に向き合う気持ちをどう表現するか『さよならもいわずに』

ストーリー、ジャンル

漫画家・上野顕太郎氏の奥さんであるキホさんが亡くなった際の話を描いている。2004年12月10日。仕事場である2階から1階に降りた際に、キホさんがうつぶせで倒れているところを発見。上野氏が必至の救命措置を行うも、そのまま帰らぬ人となる。

本作は上野氏がキホさんが亡くなった後の様子を中心に描いている。亡くなる当日やその前後、また葬儀や親せきに連絡する様子。上野氏と娘さんの残された家族の心境なども綴られており内容だけを読むと「重たい」作品。

人の死」という誰にでも当てはまるテーマではあるが、どこか死を語る事そのものがタブー視されていたりする風潮がある日本社会。人によっては異質感を受けるかもしれないが、細かなところまで心境が描かれているため一読の価値はある。

人の死を「言葉にならない表現方法」で伝えた一作

電子書籍では分からないが、コミックを触ってもらうと涙の跡を表現しているのがわかる。手に取って読み始めた当初はよくわからなかったが、「読後にそういう事だったのか」と納得した。悲しみの表現方法は色々あるが、こういった手法を使った作品は珍しいのではないだろうか。元々、本作そのもの主旨が珍しいので驚きはしないが。

自分は本作の作者の事を知らなかった。普段はギャグ漫画などを書かれているらしく、読み終えてから上野氏について調べる中でそれを知る。本作は、そんなギャグ路線の真逆も真逆。先立った奥さんの事を描いている。人は誰もが死を迎えるが、突然の死というのはあまり予期していないのではないだろうか。

私は前職で介護をしていたが、老人というのはある程度「死期」が近い。それは本人を始め周りも理解している。言ってみれば心の準備は否応なしにさせられているのだ。しかし本作の場合は、まだ中年の女性である。あまりにも突然で、直面した人にしてみれば心の準備など言っていられない状況だ

この本から伝わって来るのは悲しみであると同時に、やはり当事者たちの立場にならないとわからない世界だという事。私はまだ肉親を失くした経験が無いので、自分が作者の立場になるとどういった状態になるのか想像がつかない。

涙を流すのだろうか、何か悔やむのだろうか、それとも慌ただしさに追われるのだろうか。こればかりはわからない。上野氏がそういった「突然性」をどのように乗り越えていくかが詳細に刻まれている。独特の表現で、黒いシミのような物が作中に出てきて言葉を書き消していたり。言葉にならない思いをされた事が、上野氏の表現からくみ取れる

上野氏のキホさんへ向けたラブレター

作品の1コマ1コマからキホさんへの愛がにじみ出ている。込められた思いが溢れている。こんな事があったという事を、作者の上野氏が漫画として表現しているが、キホさんに届ける愛の言葉のような印象。形は漫画のラブレターのような、新しい表現とも言える。

誰かが亡くなるノンフィクション作品の感想では定番として語られているが、「生きている間にやりたい事をやって好きなように人生を謳歌すべき」だと思った。また、大切な誰かはいつ死ぬかも分からない中で人は生きている。その事実をもっと大事に考えるべきだろう。

サブコンテンツ

このページの先頭へ