読めばボルダリングくらいは挑戦したくなる『孤高の人』

ストーリー、ジャンル

主人公・森文太郎は転校初日にクラスメートの宮本に絡まれなれゆきで校舎をよじ登ることになった。間違えば「死」という極限の状態に置かれながらも見事に成し遂げた文太郎。この時に得た充実感から文太郎は「登る」というアクションに魅了される。

しかし「クライミング」に関する知識は皆無な彼。適当な靴で適当に挑戦していたが、良き指導者に巡り合い本気でやってみようと決意した。本作は、文太郎がどんどん力をつけながら成長し大関門である「K2」に挑む物語り。

原案は新田次郎氏の小説だが、私は小説を読まないので原案はわからないが、漫画としては素晴らしい出来栄えだった。「登山」の楽しさや爽快さなどが伝わると同時に、過酷で厳しい現実が存在する事にも気づかされる。

美しい描写で伝わるソロクライマーの物語り

作画の坂本眞一氏の描く絵は間違いなくプロの世界でもトップクラス。「漫画家になるためには絵が上手く無いといけない」と言われたのはとうの昔の話。現代は、あらゆるジャンルの漫画が世に放たれ絵よりもアイデア勝負とさえ言われるほどだ。

そんなオリジナル時代に逆行するかのように、坂本氏は原作を丁寧に漫画として描き下ろしてきた。しかし私は原作者がいる事を知ってはいるが、本作は坂本氏だけの作品と思えてしまう。歌手が別のアーティストの曲をカバーする際、「自分の歌にしている」と表現される事もあるがまさにそんな感じだろう

坂本氏の描く文太郎の命を掛けたクライミング描写からは、頭の天辺から足の指先まで神経を張り巡らせている事が伝わって来る。ストーリー、原案を通り越した緊迫感が伝わり続けるのだ。

時には吹雪の中で遭難するシーンもあるのだけど痛々しい。寒々しい。ただ漫画を読んでいるだけなのに、なぜこれほどまでに凍てつく冷気が読み手に伝わってくるのか。そこには坂本氏の並々なら絵に対するこだわりがあるからだと私は思っている

リアリティに溢れた描写は、山から落ちることへの恐怖心を呼び起こす。そして山から見る景色は壮大で感動を巻き起こす。「ストーリーを追うな!絵を追え!」と言われているかのような高レベルな画力に溢れた作品だ。

ストーリーは、文太郎の初心者スタイルでよかった。そこから知識をつけるというのが初心者の視点に立てており一緒に学べる感覚が良い。私は山に登る気はないが、文太郎の行動を見ていると「本気で山登りは楽しい」という事が伝わってきて嬉しくなる。

最初の頃の文太郎は、若いにも関わらず生きている感覚がなかったからだ。当然にやりたい事もなかった彼が、孤高ながらも挑戦する夢を持ったのだ。私も登山ではないが、目標を持って挑戦した物があったのだが、そういった何かに没頭している時の人間はある意味でバカになっている。バカになれる人生は素晴らしいと思う。

こんな人にオススメ

山を登らなくても、ボルダリングをやっている人なども楽しめる。登山と書いてきたが、要は断崖絶壁を指と足で命をかけて登る事が本作の肝になる。一瞬の気の緩みすら許さないソロクライマー文太郎の姿を見ていると、近所のボルダリング施設に行ってみたくなる。ある意味、運動不足な人が心を駆り立てられる漫画かもしれない

私はイモトアヤコが登山していたのを見て関心を持った事もある。それがハマった理由にあるのかもしれない。ドラマ的にシリアスに描かれているシーンも多く、1巻だけ試しに読んでみる価値は十分にある。

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