西宮へのイジメを目撃したアナタは彼女を救えますか?『聲の形』

ストーリー、ジャンル

舞台は小学校。主人公・石田将也のクラスに”聴覚障害者“の西宮硝子が転校してきた。小学生にとって「聴覚障害者」は異質な存在として扱われ、石田を中心としたクラスメートは西宮をイジメの標的にしてしまう。漫画とはいえど見るに耐えないイジメを受けた西宮は転校してしまう。しかしイジメは終わらなかった。

今度は、西宮をイジメていた首謀者の石田が標的にされるようになる。イジメは中学でも続き、彼が高校に入る頃にはすでに心を閉ざし切っていた。そんな石田は自殺を考えるようになり身辺整理を始めた。同時に、過去にイジメてしまった西宮に対しての謝罪をするため彼女に会いに行く事を決意する

本作は、イジメという大罪を犯してしまった石田と、その行為に関わったクラスメートたちの後悔や葛藤など本音が表現されている。それぞれがイジメに関与した理由はもちろんの事、イジメ被害の当事者となった西宮の苦悩も細かく心揺さぶる内容。

本作は、作者の大今良時氏の投げかける社会問題として話題にもあがった。

イジメの描写や現実社会との繋がりがリアル

全7巻の作品だが、1巻はまるごとイジメのシーンと思って頂いて構わない。内容もリアルで、小学生くらいの子供が持つ残酷さが痛いほど表現されている。西宮の補聴器を水没させたり、ノートを滅茶苦茶にしたり、耳が聞こえないからと大声で後ろから呼びかたり。本当に酷い事ばかりだ。

何もしらない子供にとってはささいなイジメかもしれないが、良心が育まれていった大人が読む場合は気分を害する事もある。大勢の読者から「1巻は胸糞悪い」という意見が出るが、その胸糞悪さの正体は実際に読めばわかる。私も非常に1巻は不快に思った。

ただ、それくらい酷いと思える内容のイジメだからこそ訴えかける力があるのも確か。また、リアル社会でも残酷なイジメは起こっているが内容こそ違えどリアルと交わる部分もある。このリアルとの交錯を捉えているからこそ、問題作として話題に上がったのも確かだ。

私は学生時代にイジメられたり、この作品に出てくるクラスメート側の生徒になってイジメを傍観、時には笑う立場にいた事もあった弱い人間だ。止められないスクールカーストの中に存在する同調圧に屈した事は今も恥ずかしい。

しかし、イジメられなくとも私のような人は意外と多いと思っている。そして当時を思い出して悔んでいる人もいるのではないか。「イジメという残酷行為は、大人になって後悔しても遅い」という事を、本作が強いメッセージで訴えている。石田が西宮に謝罪して、さらにその後を償うような描写で伝えられるのもイジメの酷さを物語っていると思う。

また、イジメの最中はクラスメートも笑っていたが、彼らが成長する過程でこの問題を思い返した時、誰もが石田のように後悔しているわけでもない事がリアル。

「あのイジメはやり過ぎた」と深く反省する者もいれば、「あれは○○が~」と他者のせいにす者もいる。いじめる側はそこまで悪い事をしていないと考えている事なども細かいがきっちり表現されている。イジメをやったからといって、すんなり反省に繋がらない現実を描いている

 

救いは西宮硝子の優しさ

イジメた側の話を書いてきたが、ヒロインの西宮は本当に残酷な目にあった。石田と再会して、以前のクラスメートらと共に行動するようになるも、遺恨は残ったままだっただろう。私なら、西宮のように振る舞えない。イジメた相手を何事も無かったかのように受け入れられないモヤモヤ感を読み手は感じてしまう。

もちろん、西宮もすんなり受け入れているわけではない。すでに西宮は、イジメた人間とは次元の違う世界を生きてるようにも読みとれた。”すでに大人”という表現がぴったりするような達観した視点さえ持っているように。過去は過去として受け入れ、いま周りにいる人たちを信じて付き合ってくれる

本作は、「西宮がイジメを受ける事に納得がいかない」とイライラさせられる場面が多いが、そんな読み手のイライラさえも西宮のおかげで沈められているようにも思った。

それは彼女が誰も恨まないという事。そして彼女の優しさは、読者も含めた全ての人が傷つかない振る舞いに繋がっている。その分だけ、何十倍も西宮は負担してしまうのだろうけれど・・。

周りに西宮と同じような境遇に立たされている人がいた時、そっと手を差し伸べられる人間がこの世界にどれだけいるのだろうか。人間という生き物の愚かさ、弱さを個々をはっきりと自覚する必要性を迫られる気持ちになる

こんな人におすすめ

「イジメ」という問題は、人として生きる以上は永遠のテーマなのではないかと言うくらい語り尽くされている。「イジメを無くそう」といった活動や「どうすればイジメの撲滅ができるのか」といった議論はその最たる物だろう。それも答えとなる物は無いに等しいが・・。

大人の世界ですら起こるイジメがある。むしろ大人の世界にイジメがあるからこそ、子供に対して「人としての正しさを教えられない」のではないかとさえ思う。しかし、それでも考えて行かねばならない問題に変わりはない。

子供たちに「なぜイジメはいけないの?」と聞かれた際に、自分なりの答えを用意できていない人もいるだろう。そういった人は、ひとまず本作から答えを探し出してみてはどうだろうか。

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