少女漫画家の先入観をぶち壊した会心作『3月のライオン』羽海野チカ先生に脱帽

ストーリー、ジャンル

15歳という若さで将棋のプロ棋士となった主人公・桐山零。彼は幼い頃に交通事故で家族を失っており、父の友人で棋士の幸田に内弟子として引き取られた。しかし幸田家の中で零は孤立しており家を出る事を決意。またプロ入り後、高校へ進学していなかったが1年遅れで入学。しかしその学校でも孤立していた。

そんな折にあかり・ひなた・モモの川本家の3姉妹との出会いがあった。また学校でも理解者となる教師と出会い鬱屈した生活に変化が起こり始める。これまで住んでいた世界とのギャップに戸惑いながらも、少しずつ変化を見せるプロ棋士・桐山零と周りにいる人たちとの人間模様が展開されていくストーリー

将棋漫画として非常に熟成された質感がある。個性溢れる勝負師たちとのぶつかり合いはもちろん、厳格なる棋士の世界が表現されているため将棋ファンならずとも引き込まれる。

ヒューマンドラマの要素も含んでおり、人々の心情に向けられる訴求力は並大抵のものではない。和やかな空気と真剣な空気の使い分けは秀逸のひと言。

こんなところ何があったって 生きて卒業さえすれば 私の勝ちだ

現時点(2015/11/18)では11巻までしか発売されていないが、順当に行けば歴史に名を残す名作となるだろう。もうすでに高評価されているので言うまでもないが。私が注目している理由は「心をえぐるドラマ性」×「棋士の生き様が語られる対局風景」×「零の成長」の3要素が上手く折り合っているからだ

漫画であり作られた物とわかりながらも、ストーリーにはリアリティを感じさせる物がある。綺麗事ばかりでは生きられない人生観、時には我を捨てる勢いで守らねばならない正義感、また自分もどこかこの作品の世界の一部になっているよに感じるほど入り込める臨場感。羽海野チカ氏の才能を感じざるを得ない。

また川本家の次女・ひなたのいじめ問題は現代社会の問題とリンクするところもあり、読み手は忘れられない一幕となったのではないだろうか。いじめられる同級生をかばったひなたが標的になるのだけど、彼女が抱え込む悲痛な心の痛みは読者はもちろん零にも届いている。彼女を守るために動く零の真剣さは何とも言えなかった。

一例を上げたが、ひなたのいじめ問題は大きなハイライト。「こんなところ何があったって 生きて卒業さえすれば 私の勝ちだ」は、もはや言うまでもない名言である。私はこのシーンに涙が止まらなかったが、他にも心が締め付けられるシーンは多い。

そして肝心な将棋の対局にも力が入っている。棋士という人たちはどこかクセのある人という印象があるが、その印象も悪く無い仕上がり。個性派の棋士の登場シーンだけでも十分に読み応えアリ。

羽海野テイストのセリフ回しは面白く、張り詰めたシーンの多い本作に取ってのひと時の休息である。どの切り口から読んでも「次が読みたい」と思わせる作品に出会えて私はとても幸せを感じている。

哲学的な心情描写の奥深さに見応えアリ

対局のシーンも日常の風景も魅力がある。そこにあるのは「人の生き様」という哲学的深さがあるからだろう。作者の感受性は人を突き動かすが、これだけ多くの感情を読み手に呼び起こさせる漫画は他にあっただろうか。「喜怒哀楽」が凝縮された内容には素直に脱帽した。

またプロ棋士の現場を描いているが、プロの生き様を描くのが上手い。そこにはプロ漫画家として、第一線を歩んでいる羽海野チカ氏だからこそ描けているように思う。監修の先崎学氏のコラムも面白く、オマケというには惜しいレベル。

私は囲碁漫画将棋漫画チェス漫画など思考ゲーム漫画が好きなのでコラムも当然のように読みたくなるのだ。

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